三重の稲作
古来より、日本は「豊葦原瑞穂(とよあしはらのみずほ) の国」と称され、ʻʻ水に恵まれ稲が立派にみのる国ʼ’といわれていた。私たち日本人にとって、米は主食であると同時に、神と人とを結ぶお供え物でもある。三重の稲作の歴史は古く、2000 年前に古代皇族・倭姫命(やまとひめのみこと)が伊勢神宮の神田(しんでん)を定めたとの伝承があるほどだ。
伊勢神宮では、稲作など自然からの恵みに祈りを捧げることで人々の安寧を願う、年間1500 回にもおよぶ祭りが催されている。 お祭りにお供えされる米は、三重の清らかな水によって育てられ、その年にとれた新米は、「神嘗祭(かんなめさい)」で奉納される。 こうして神に捧げることで、天の恵みに感謝の意を表している。
過去と現在をつなぐ水
三重県を流れる豊かな河川は、紀伊山地や鈴鹿山脈に代表される雄大な山々を源としている。天から森に降った雨は、川を流れる水に姿を変え、太平洋に注がれる。その後、蒸発して、また天に昇り雲となり、 森に還る。水は、地球が誕生したその時から体積を変化させることなく循環し続け、私たちに恵みをもたらす。
天から降った雨が川となり海に注ぎ海藻を育て、伊勢海老、鮑などをはじめとする様々な海の幸を生育している。伊勢平野には数多くの川が流れており、豊富できれいな水を使い米が作られてきた。我々は、その清冽な水と米から酒を造る。天からの雨は、川を流れ、稲を育て、酒を醸し、海へと注ぎ、命を紡ぎ、また天へと還っていく。永遠に繰り返される水の循環。海、米、酒、そして神。
こうした古代から繰り返されてきたこの地の歴史を踏まえ、我々は三重の水を、「Celestial Water」(天からの水、聖なる水)と名付けた。
繰り返される永遠の祈り 伊勢神宮
伊勢神宮は、正式には「神宮」という。神宮には、天照大御神(あまてらすおおみかみ)をお祀りする皇大神宮(内宮)と、豊受大御神(とようけのおおみかみ)をお祀りする豊受大神宮(外宮)をはじめ、125の宮社が含まれる。伊勢市にある神宮の⾯積はパリ中心部とほぼ同じ大きさで、そのほとんどは森だ。皇室の繁栄、世界の平和、そして五穀豊穣を祈って、毎年数多くのお祭りがここで⾏われている。
神宮最大のお祭りは、ご社殿を20年に一度造り替える「式年遷宮」。1300 年にわたり繰り返されてきたこの祭事は、常に瑞々しいご社殿へお遷りいただくことで、”永遠に変わらないこと”に大きな意義があるといえる。
伝統を持続させるため、知恵と技術で醸す三重の酒
三重県には古くから東海道や熊野街道をはじめ、伊勢神宮への参宮街道が多く整備されており、全国津々浦々の人々が往来していた。人と共に食・芸術・産業などの文化が交差する情報の集積地でもあり、 そしてそこには旅人の疲れを癒す酒があった。
伝統的な成り立ちを大切に、今日まで⻑い歴史を重ねる三重県の酒蔵では、自然の循環によって育まれる原料に感謝を込め、この地の酒造りを未来へとつなぐことで恩返しができるよう、持てる技術と情熱のすべてを注いでいる。こうした古代から続く循環型社会の象徴としての存在が伊勢神宮である。
そこには、伊勢神宮が20年に1回の建て替えをする「常若(とこわか)」の精神と通じるものがある。”伝統”を守りながら刷新する。その精神を酒造りにおいても重視することで事業を継承し、味わいは進化させながらも、常に感謝の気持ちを忘れることなく、真摯に酒造りと向き合い続けている。